:憧憬小景2〜ミドの憂鬱
うれしい時にはぱあっと晴れて、かなしい時にはしとしと雨ふりで――
――なんて、うまくはいきません。
おはなしの中では主人公の気持ちにほんとに都合よくクルクル変わってく、お天気。でも現実のお天気とひとの気持ちって、どうしてきちんと連動しないんだろう。
ボクはいま、そんなことを考えながら歩いてます。
つまりボクがいいたいのは、きょうはとってもよく晴れてていいお天気。だけど今、ボクの気持ちはくもりぐらいがちょうどいいのに、ってこと。つまり、なんだかうまくいってないぞ、ってこと。
ボクはミド。お仕事はおじいちゃんと一緒に“科学者”をしています。
おとうさんも科学者だったみたいです。おかあさんは、そうじゃなかったみたいです。ふたりとも、研究はすきだったのかな?きらいだったのかな?どっちにしろ、いまはもうなにもわからないんだけど。
で、ボク。いつもはおじいちゃんと研究所で色々な研究をしているんだけど、きょうは研究は全部お休みにして、バル城に来ています。
きょうはクルルおねえちゃんのお誕生日なんだって。それで「パーティーをやりますよ」って、しょーたいじょーが来て呼ばれたんだって。だけど、おじいちゃんたらギリギリまでボクにそのことを言うのを忘れてたから、ボクはプレゼントにできそうなものを何も持ってこられませんでした。そのころはちょうどやってた研究が一番だいじなところに来てたから、おじいちゃんもうっかりしちゃったんだね。ボクだってその時は楽しくて、その研究のことばっかり考えてたよ。だから、おじいちゃんは全然悪くない。
だけどやっぱり、プレゼントがないとおねえちゃんがガッカリするんじゃないかと思って、どうしてもそんなことばっかり考えて、それできもちがくもり空になってます。
パーティーはお昼ちょうどからなんだって。
ボクたち以外にもお客さんはたくさん来てるよ。すっごくヒラヒラしてキラキラしたドレスを着た女の人とか、クルクル歩きまわってはカクカクお辞儀してる男の人とか、もういっぱい。よく考えたらクルルおねえちゃんって、おひめさまなんだよね、あんまりそんな感じしないけど…。でも、それならお客さんもいっぱいくるよね。だけどみんなボクの知らない、おとなのひとたちばっかり。有名人なおじいちゃんはけっこう知ってるひとが多いみたいで何回も立ち止まってアイサツしてるけど、ボクはそうじゃないからつまんない。つまんないけどつまんなそーな顔をしたらわるいかな、と思ってがんばって笑ってたけど、おじいちゃんは「退屈だったら探検してきなさい」だって。どうしてボクがつまんないと思ってることがわかったんだろう?やっぱり、おじいちゃんはすごいや。
だけど、「探検」をはじめてすぐ気付きました。一人じゃつまんないよ。おじいちゃんも一緒に来てくれたらなあ…でも、おじいちゃんはたくさんアイサツしなくちゃいけないからいそがしいし。
あーあ。こんなとき、クルルおねえちゃんがいたらいいのに。
クルルおねえちゃんって、なにかを楽しくすることの天才なんだよ。どんなに何もなくてつまらない時でも、人がいなくても、すぐに決まりごとを作って楽しいあそびにしちゃうんだ。
…だけど、きょうはおねえちゃんはパーティーの準備でいそがしいから、パーティーの時まで出てこれないんだって。おねえちゃんもヒラヒラキラキラした服を着るのかな?あれって、きっと着るのたいへんだよね。それならしょうがないのかなあ。
それに、それに。もうひとつあります。
プレゼントのこと。
ボク以外のお客さんはみんなプレゼントをもってきてるみたい。おじいちゃんももってきてる。普通の部屋にもおけるようにおじいちゃんが手作りした、小型の望遠鏡なんだよ。星がビックリするぐらいよくみえるんだ。「これは二人からのプレゼントにしよう」っておじいちゃんは言ってくれたけど、でも、ボクはやっぱり…プレゼントぐらいは、じぶんでえらぶべきじゃないかなあと思います。なんとなく。そりゃ、ボクだって少しはおじいちゃんをてつだったけど、それだって最後にかざりのビーズをくっつけただけだし…ほんとはね、望遠鏡、ボクはまだじぶんで作ったことがないんだ。作ったことがないのに「作った」なんていったら、ボクはウソつきみたいじゃない?そんなのはいやだな。だけど、せっかくお呼ばれされたのにプレゼントをもってないっていうのは、やっぱり……ああ、またここにもどってきちゃった。考えないようにしてるのに。くもり空はイヤです。すっきり青空がいいです。
* * *
考えごとをしながら歩いてたら、いつの間にか森みたいな場所にきていました。
風があったかくって、あかるくて、葉っぱのみどり色がすごくきれい。おひるねなんかしたら気持ちよさそう。なんだかこの森、気にいっちゃったな。
でもここって…バル城?
「う〜〜〜」
モンスターが出たのかと思って、ボクはびっくりしてしゃがんでしまいました。
だけど、すぐに気付きました。森のずうっと向こうに、バル城の城壁がみえてます。門をくぐった覚えはないし、それならここはバル城の中のお庭です。ひとがいないから、たぶん、うら庭。そんなところにモンスターがいるはずは…ないよね?
「ううう〜〜〜」
ボクはそおっと声のするほうにいってみました。木のうしろからのぞいてみると、男のひとがうーうー言いながらじぶんの髪の毛をぐしゃぐしゃしていました。よかった、やっぱりモンスターじゃないんだ。でも、きれいな森のふんいきが、だいなし。
「…誰だ!?」
「うわぁ!」
男のひとが急にこっちを向いたので、とってもおどろきました。
しかもそのひとは、ボクの知ってるひとでした。
「…バッツおにいちゃん!」
「…え、ミド?ミドか?」
おにいちゃんはとってもビックリしたみたい。そうだよね、こうして会ったのって一年ぶりぐらいだし。
「はぁ…なんだよ、ミドかよ。脅かすなよなー」
おどかしたつもりはないのに。
それに、ボクだってビックリさせられたんだけどなあ…まあいいや。
「おにいちゃんも来てたの?」
「あ?あ、ああ、まあ…」
おにいちゃん、キョロキョロしててなんかヘン。まえからいつも子供っぽいひとだなーとは思ってたけど。
「だれかまってるの?」
「へ?」
「キョロキョロしてるから」
「あ…ああ、違う違う。なんかこう、首がコッててさ。ハイ、首回す運動ー…アッハッハ」
…どうしよう。
おにいちゃん、ヘン。すっごくヘン。
まさかニセモノ?それともクセモノ?
でも見た目は、どうみてもおにいちゃんなんだよねー…。
「ねえねえ。なんでうーうー言ってたの?」
おにいちゃんがわらったまんま止まった。
時間が止まった?
「んなわけあるか!」
おにいちゃん、こんどはおこりだしちゃった。
どうなってるの?
「ったく…もう何年の付き合いだと思って……のに…」
なんかコワイ顔でぶつぶつ言いはじめたよ。あわわ。
おじいちゃん、こわいよー。たすけてー。
「……よね、なんて……だけ…レナの奴!」
「え、レナおねえちゃん!?」
ボクはこわいのも忘れてきいてしまいました。
「おねえちゃんも来てるの?きょう」
「ああ。姉妹揃って来てるぞ、あそこは。会ってないのか?」
「うん」
あれれ?おにいちゃん、レナおねえちゃんが来てるのにどうしてそんなにイライラしてるんだろう?
いつもはもっとこう、ボクから見ててもおかしいぐらいデレデレ〜っとしてるのに。いつだったか、クルルおねえちゃんも言ってたっけ。
『ほらミド、あれが伝説のモンスター<デレ=デレ>よ。<恋の病>ってゆー、ヤなステータス異常に一年中かかってるの。カッコつけてるつもりでニヤニヤしてる、だらしない大王よ。無職で住所不定だから捕まえるのは難しいけど、タイクーン近辺によく出没するって。ちなみに弱点は、レナお姉ちゃん。似顔絵でも、見せただけで動きが止まるんだよ。もう弱ヨワ。ヤでしょ?ミドはああいう大人にはならないようにね?』
…それがどうして?
「…もしかしてケンカとか…したの?」
「いっ!?」
おにいちゃん、その顔はたぶん、「図星」。
「…なにやったの?」
「お、俺は悪くない!……はずだ」
あれれ?こんどはおにいちゃん、なんだかションボリ。
「でもまさか、あんなに怒るなんてなー…」
おこる?
あのやさしいレナおねえちゃんが?そんなのしんじられない。
「…ねえ、なにやったの?ほんとに」
「いや、ちょっと…」
おにいちゃんはなにかモゴモゴいったけど、全然きこえない。
ただ、なんだか顔があかくなってるみたい。熱でもあるのかな。だいじょうぶかな。
「…ああ!でも、泣かすつもりはなかったのにぃ!」
「…泣かしたんだー…」
「うう〜」
おにいちゃん、ガックリしちゃった。
じぶんがわるい、っていうのはわかってるみたい。
「きらわれちゃうよ?」
「ううう〜〜…!」
おにいちゃんはまた髪の毛をぐりぐりしはじめました。
…そっか。これって、困っちゃったときのポーズなんだね。なっとく。
「あやまれば?」
「…簡単に言うなよ」
おにいちゃんはボクをにらんだ。…コワイよー。
でも、ここで負けちゃいけない。ぼくだってオトコなんだから!
「なんか、原因とかよくわかんないけど、きらわれたらヤなんでしょ?」
「そりゃ…」
おにいちゃんはまたあかくなってモゴモゴ。
「それに、やっぱりオトコは女のひとを泣かせちゃダメだよ…って…これはクルルおねえちゃんに教わったことなんだけどね…」
あれれ?ぼくまで、なんとなくモゴモゴ。なんで?
「…んーとね!だからね!とにかく、わるいことしたらやっぱりあやまらなくちゃダメだと思うんだ!」
せっかくボクが正しいことをいったのに、おにいちゃんはなんだか遠ーいところを見てるよ。あらら。なんだかガッカリ。で、なんだかまたブツブツいってる。
「そうだよな…それがいいかもな…」
んん?それってなに?ボクがいったこと?
「やっぱり、素直なお子様の言う事が正しいのかもな…うん、よし」
なにが「うん」でなにが「よし」なんだろう?…なんて考えてたら、きゅうにおにいちゃんがボクを見たからビックリした。
「ミド、お前の言う通りにしてみるよ」
「そう?」
ボクはうれしくてニコニコしてしまいました。だってやっぱり、知ってるひとどうしがケンカしてるなんて状態、イヤだもんね。
「…っても、許してくれないかもしれないけど……ん?」
おにいちゃんはビックリしたけど、ボクもびっくりしちゃった。
だって、おにいちゃんのうしろからレナおねえちゃんがでてきたから。ドレスも髪もきれいにしてるのに、こんなところを走ってきたから葉っぱだらけになってます。
「――バッツ!」
「…おねえちゃん?」
「レナ!」
おねえちゃんはボクなんか見えないみたいで、おにいちゃんにギュッてして、おにいちゃんもギュッてして、それで、あとはもうふたりのせかい。あらら。なんか恥ずかしいな。
「ごめんねバッツ。キス…のことなんかで怒ったりして…」
…『キス』?…え?なに?
なにをいってるの?ふたりとも。よくわかんない。
「いや、いいよ。気にしてないから。こっちこそ、謝らなくちゃって思ってたとこ」
おにいちゃんがちらっとボクの方にふりかえった。
んん?なんだろう?
「ホントごめん。…無理言った俺が悪かったんだ。考えてみたら恥ずかしいよな」
「無理じゃないの。嫌じゃないの。でも、急だったからびっくりして…」
おにいちゃんがまたボクをみた。なんか片足で何回もボクの方をけるマネをしてます。
…なに?
「じゃあ…怒ってない?許してくれる?」
「…当たり前じゃない、そんなの」
おねえちゃんは、涙をうかべながら、おにいちゃんにギュッ。
おにいちゃん、まだ片足がボクの方をけってます。…だから、なんなの?
…あ、わかった。わかっちゃったよ。
『邪魔者はきえろ』ってことですね?
わかったよ。わかりましたよ。恥ずかしいし、さっさと消えますよ。
ボクはそーっとうしろに下がりながら様子をみたけど、ふたりとも全然ボクのことは気にしてないみたい。おにいちゃんがおねえちゃんのほっぺたに触ってます、おねえちゃんはおにいちゃんのおでこなんかさわってます…うわ、なんかボクがドキドキしてきちゃった。なんで?
「…こんなことしたら、また平手打ちされるのかな…」
「ふふっ」
わらいながらじーっと見つめあっちゃって、ムシされてるみたいでなんかさみしいような気もするけど、ボクにはこのふたりのあいだには入れないかな。恥ずかしいし。だからしかたないんだよね?
そのままイチ、ニィ、サン、でうしろを向いて走りだして、ずっと走っていったところでちょっとだけふりかえってみたら、どうやらケンカの原因になったっていう、『キス』をしてました。
「……!」
ボクは見ちゃいけないものをみたみたいな、いけないことをしたような、とっても恥ずかしい気分になって、ドキドキしながら全速力でにげだしました。…あんな恥ずかしいことのために、だいすきなひととケンカしたのかな?ボクはケンカなんか大キライなのに。ケンカしないのが一番いいのに。
…オトナって、よくわかんないや。
ボクにもオトナがわかる日なんて、くるのかな?
そのままはしってたけどドキドキがどうしても止まらなくてまだはしってたら、いつのまにかうら庭からまたお城のおもてまでもどってたみたい。
きゅうにだれかに呼ばれました。
「――ミド!!」
あっちこっちキョロキョロして、ボクはやっと見つけました。
「クルルおねえちゃん!」
おねえちゃんが、二階のまどから手をふってる。
「ミド!ちょーっと、そこで待っててくれる?すぐおりるから!」
おねえちゃんは、ほんとうにすぐおりてきた。
ようするに、まどからポンととびおりてきて、みごとにスタッ。
「うわあ、すごーい!」
ボクははくしゅしたけど、ちょっとしんぱいにもなった。
そんなことして、おねえちゃん、ドレスだいじょうぶなのかな?
「ひさしぶりだね、ミド。来てくれてありがと!元気だったー?」
「うん」
ボクはきゅうに思いだしてしまいました。
プレゼント…
「ねぇねぇミドミド。あたしねえ、見てたんだー」
おねえちゃんはとってもうれしそう。
でもボクはそれどころじゃなくって。
「へー…なにを見たの?」
「もう、とぼけなくっていいの!」
おねえちゃんはバシバシとボクの肩をたたきます…ちょっと、イタイ。
「だってあんたたち、あたしの部屋のすぐ下でワイワイやってんだもん。気になって覗いちゃうでしょ、人情としては。窓だって開けたりなんかして」
「…え?ワイワイ?」
「そしたらさ、そしたらさ…いやーだ、もう!恥ーずかしー!」
「お、おねえちゃん…?」
「でもさあ、キス未遂で喧嘩?ってゆーか、未だにキスまで行ってなかったって、それはそれでちょっとスゴイと思わない?あの二人、いま何歳だっけ?…うーん、まあ、あの二人はそーゆーとこが面白かったりするんだけどね〜…からかい甲斐があるとゆーか」
「おね…」
「まぁ、ミドも災難だったよね!あんな毒気にすぐ近くで当てられちゃって」
…なんていったらいいんだろう?
恥ずかしいものをみちゃって、死ぬほど恥ずかしくて、せっかくにげたのに、それを全部見られてた、っていう…恥ずかしいっていうのより、もっともっともっと恥ずかしいよー。
「わ…わわわわわわわわ」
「…あれ?顔、真っ赤だよ。大丈夫?お子様には刺激が強すぎた?んん?」
「わわわわわわわわわわわわ」
「…ミド!?ちょっと、大丈夫!?」
だいじょうぶじゃありません。ボクは壊れてしまいました。
しんぱいそうなクルルおねえちゃんの顔がぐにゃーっとして、声がなんだかとおくなって…気分がふわーっとしてきて、まわりがすーっと白くなってきて…きゅう。
* * *
気がつくと、ボクはへやのベッドでねてました。
いつのまにか日もくれちゃったみたい。へやはもうまっくらで見にくいけど、どうやらボクとおじいちゃんに貸してもらってるバル城のおへやだと思う。だってあそこにおいてあるカバンはおじいちゃんのだし、そこにころがってる薬品入れはボクのだし。
あ…薬品入れ?そうだった!
ぼくはいそいでベッドからおりて、薬品入れのなかからちいさいガラスびんを出しました。
なかにはみどり色の液体がはいってます。ふたをしてあるから、こぼれないんだよ。
コンコン
ノックをしてはいってきたのは、クルルおねえちゃん。
もうふつうの服にもどってる。
「…あ、気がついたんだ。大丈夫?」
ボクはいそいでビンを背中にかくして、こくこくとうなづきました。
「おねえちゃん、ドレス…」
「パーティーならとっくに終わっちゃったよ、言っとくけど」
「あ、そうなんだ…」
そっか、もう夕方だもんね。ボク、そんなにながいあいだ気絶してたんだ…。
「あーあ、つかれたー」
おねえちゃんはそのへんのイスにどっかりすわった。
「いやだよねえ、誕生日ぐらいでこんなに大騒ぎしてさ。つまんない挨拶とか疲れるダンスばっかで、全然楽しくないし…みんなに会えるのはすっごく嬉しいんだけどね?あ、でも、ミドは結局パーティーには来なかったしね…気絶してたんだし、しょうがないんだけど。…そうそう、プレゼントありがとう。望遠鏡、大事にするね」
「あ、あのね、クルルおねえちゃん!」
ボクはおもいきってガラスびんを見せました。ホントのことをいうのはコワイ。
でもがんばれ、ボクだってオトコなんだから!
「あのね、あれはちがうんだ。ボク、その…よういできなくて…でも、だから、かわりにこれ!」
クルルおねえちゃんは、ちょっと考えただけでわかってくれた。
「…じゃあ!できたの!?くれるの!?」
「うん!」
「すごいすごーい!でもこれ、大変だったでしょ?」
「さいしょだけ。とっかかりがわかったら、あとはカンタンだったよ」
ちょっとウソ。だって、薬品学はボクの専門じゃない。ほんとうはこれだけに三ヶ月もかけちゃった。
でも、ちょっとぐらいカッコつけのウソをついても、いいよね?
「ホント、すごいよ〜!ミド、ありがとうね」
おねえちゃんがボクのあたまをなでてくれた。えへへ。
あかちゃんがされるのみたいだけど、ほめられるのはうれしいな。
「じゃあ、さっそく使ってみてもいーい?」
「もちろん」
ボクとおねえちゃんは、にっこりわらいあいました。
「あたしね、今ちょうど育ててる食虫植物があるんだけど…そう、植物なんだけど、虫を捕まえて食べちゃうの。見たことない?実験台にちょうどいいと思うんだけど。いつもね、アレがおっきくなったらステキだなって思ってるんだ。みんなはコワイって言うけど、でも、近くでよく見るとけっこうカワイイんだよ?ミドならわかってくれるような気がするんだ」
「実験台?」
「うんうん!あのね〜……」
なんだかわからないけど、それはとってもいいアイディアなんだと思いました。
おねえちゃんのはなしをきいてたら、なんだかボクまでわくわくしてきたから。
…どうしておねえちゃんといると、こんなに楽しいんだろう?
なんでなんだろう?
よくわからない…でも、フシギだよね。
* * *
―――ぎゃああああああああああああ!!!!
夜中なのに、すっごいさけびごえ。こっそりへやをぬけ出してろうかにかくれてたボクとクルルおねえちゃんは、まっくらななかで手をたたいておおよろこび。
「大成功!」
おねえちゃんがカンテラに火をつけて、さきにたってあるきだました。ボクも、うしろからついてくよ。
「さあ、観念しなさいイケニエっ!」
おねえちゃんがさけびました。ということは、ここがさけびごえの現場?
ボクはそーっとおねえちゃんのうしろから顔を出して、見ました。
たかいろうかのてんじょうにとどくぐらい、おっきなお花。ボクのうでよりふといクキ。神経がかよってるみたいにうごきまわる、おおきな葉っぱ。それがまぶしいカンテラのひかりにてらされてビックリしたのか、うねうね動いてる。上下二枚だけしかないはなびらはとってもぶあつくて、まるでひとのクチビルみたい。それがおねえちゃんのきめた<イケニエ>さんをくわえてる。
「すっごぉい!!」
おねえちゃんはほんとうにうれしそう。
「ミド、すごいね!この<超強力植物栄養剤ミド・スペシャル>!」
「うん!」
ボクだって大満足。だって、実験のときだってこんな短時間に、こんなにキモチワルイほどおっきくはならなかったから。…ああ、ドキドキする。おもしろいなあ。いつもの科学はとってもおもしろいけど、化学だってこんなにおもしろいんだね。『ミド、自分を狭く専門化することなどない。全部の学問を好きに究めろ』…なんて、おじいちゃんがいつもいってるのは、このことなんだね。
「お…お前らの仕業か!?」
ボクの<超強力植物栄養剤ミド・スペシャル>の効果でキモチワルくおっきくなったお花にくわえられたまんま、バッツおにいちゃんがバタバタあばれてる。――あ、そうそう。クルルおねえちゃんのきめた<イケニエ>さんって、バッツおにいちゃんだったんだよ。
「とにかく、はやく下ろさせろよ!俺、こんな高さでも高いのは嫌なんだからな!」
うーん。かわいそうだけど、それはムリ。
この栄養剤を使うと、使った対象は夜のあいだ活発になる――つまり、夜行性になるんだ。だから朝になってそのお花がねむくなるときまでは、きっと放してもらえないよ。
「――なんの騒ぎだ!?」
やってきたのは、カッコいいファリスおにい…ううん、おねえちゃん。髪の毛ボサボサでも、ちょっとねむそうでも、すごくカッコよくて、ボクもいつかはあんなカッコいいオトコになりたいなんて思う。バッツおにいちゃんよりもずっとカッコいいおにいちゃんみたいなのに、ホントはレナおねえちゃんのおねえちゃんなんだって。しかも、ほんとの名前はべつにあるんだって。…なんだかムズカシイね。ボクも、ほんとのところはよくわかってない。
「…なんだ、コレ」
ファリス……さん、は、とってもブキミそうにお花を見ました。
おにいちゃんはファリス…さんがきたときから、ずっと死んだフリをしてるからしゃべらない。
「…なんで、レナの部屋の前にこんなモンが植わってんだ…?」
「あたしが置いたの!」
クルルおねえちゃんが手をあげた。すっごく、とくいそう。
そうそう、おねえちゃんがおき場所をきめたんだよね。ここ、って。
でも、どうして「ここならおにいちゃんをつかまえられる」ってわかったんだろう?
「だって、あたしがバッツを呼び出したんだもん。レナお姉ちゃんに書いてもらった、ニセモノの手紙で…って言っても、レナお姉ちゃんはなんに使うのか知らずに書いてくれたんだけど。やさしいよねぇ」
「さすがレナ」
ファリスさんもうれしそうに感心してる。妹をほめられたからうれしいのかな。
バッツおにいちゃんはショックをうけたみたいに「あれがニセモノ!?」なんてさけんでる。でも、だれもきいてなくてかわいそう。
「…待てよ?…ニセ手紙…それにこの植物?」
ファリスさんは、なにかわかったみたい。じーっとクルルおねえちゃんと目をあわせながら、うなづいた。
「…そーか。それで今夜は俺とレナの部屋を一緒にしたんだな?」
「うん」
そうそう。なんにも知らないレナおねえちゃん、今日はファリスさんといっしょの部屋でねてます。
「おかしいと思ったんだよ。急に部屋数が足りなくなった、なんて…城だろ?ここ。どっかの賊のアジトじゃあるまいし…」
ファリスさん、とおい目つき。
「まぁいいや。つまるところ、害虫駆除…なんだな?これは」
「んー…むしろ、イヤガラセ?えへへ」
おねえちゃんはたのしそうにうなずきました。
「幸せそうにしてるのは勝手だけど、まわりはアツ苦しくて仕方ないんだもん。ちょっとぐらい、いいよね?どうせ相手はバッツだしさー」
あつくるしい?ガイチュウ?おにいちゃんが虫?…ボクには、なにがなんだかわかりません。
おにいちゃんが、がばっと顔をあげました。
「ううう、卑怯者ぉ!…何が楽しいんだよ、こんな…期待させといて…」
「ヒキョウ?当たり前じゃん!」
死にそうな顔でなにかモガモガいってるおにいちゃんに、クルルおねえちゃんがピシッといいました。
「だってこれ、罠だもん」
おにいちゃんはまだモガモガいおうとしてるけど、きこえない。
いいたいことはハッキリいわなきゃいけないんだね。さとりました。うん。
それにしてもレナおねえちゃんのニセの手紙って、なにが書いてあったんだろうね?
「…じゃ、この馬鹿はここに置いとくとして。レナが待ってるから俺は部屋に帰るけど」
ファリスさんはとっても楽しそうにわらいながら、ボクたちの顔をみました。
「…せっかくここにこれだけの面子が揃ってるんだ。どうだ、お前らも一緒に来て語り明かすか?」
そっか。そうだよね。
こんなになかよしのみんなが集まってるのも明日の朝まで。それをすぎたらみんなかえっちゃう。
そしたらみんなお仕事があったり旅にでてたりして、なかなかあえなくなっちゃうんだよね。また。
「うん、それすっごく楽しそう!…だけど」
クルルおねえちゃんが、ボクの手を思いっきりひっぱりました。
ボクはこけそうになったのを一生懸命がんばってこけないようにしました。
ふう。あぶないあぶない。
「残念ながらあたしたち、これから屋上に行って、二人で星空観察ツアーやる約束してるの!」
え?え?そうなの?それは初耳。
「ね、ミド?」
…あ。今おねえちゃんがちらっとみせたの、おじいちゃんが作った望遠鏡。
「だから、せっかくだけどご一緒できません。…そうでしょ?ね?」
あれあれ、おねえちゃんがボクにわらってる。
だから、だいじょうぶなんだ。「うん」っていってもだいじょうぶなんだ。
きっと、すごくすっごく楽しいことがまってる。
いつもそうなんだから。
「…うん!」
「おー、なんだ。デートだったのか。そりゃー邪魔しちゃ悪いよな」
ファリスさんはニヤニヤ。
うわーん。やめてほしいな、そういうの、恥ずかしいよ。
だけど、ふたりであそびにいくって…それがよーするに、デートなの?
うーん…よくわかんないや。
「…あーあ、真っ赤になっちゃって、コイツ」
「ちょっとファリス、やめてよ。ミドが昼間みたいにまた倒れちゃうでしょ」
「あれは日に当たりすぎて倒れたんだろ?」
…あ。あ、あ。
どうしよう。へんなこと思い出しちゃいそうだよ。いまはお花にくわえられてグッタリしてるけど、バッツおにいちゃんをみてたら、なんだかまた恥ずかしくなってきちゃった…。
「…は、はやく行こっ!おねえちゃん」
ボクはクルルおねえちゃんの手をひっぱって、はしりだしました。
「うわ…ちょっとミド、なに急いでんの?」
そんなのいえないよ…恥ずかしいし、ホントはボクにだってよくわからないんだ。
ボクがだまってると、クルルおねえちゃんはふしぎそうだったけど、少ししてからちょっとわらったみたいでした。
「…まあ、とにかく。お星様、たーくさん見えるといいね!」
「うん」
見えるよ、もちろん。
「だって、ボクのおじいちゃんが作った望遠鏡なんだから!」
おじいちゃんの作るものはなんでもカンペキなんだから。
だけど。
でも――それなら。
…ボクも、こんどじぶんで作ってみようかな?
ねえ、おねえちゃん。
ボクにも作れるかな?ボクが作る望遠鏡、ちゃんと星はみえるのかな?
カンペキじゃなくてもいいんだ。みえればいいんだ。だからいいよね、ね?
どう思う?
ねえ、おねえちゃん?
>あとがき…らしき<
没物リサイクル第二弾・その名も「憧憬小景2」です(没前原題=「ミドの憂鬱」)。ある理由により、この「リサイクル小話」シリーズは全部このタイトルで統一となります☆(←安易な…笑)
念願のミド話です。しかも、なんとなく仄かにミド×クルル・略して「ミドクル」風味。密かにバツレナ以外のカップルを書くのは初の試みだったり…(それでもやっぱりバツレナの影が/笑)まぁ、そうはいっても全然カップルらしくないですが…いやむしろ「カップル」というより、ただ「子供が二人そこにいる」という感じがしなくもないですが…!(汗)
ええと…そう、あれはいつだったか…とりあえずある場である人とミドクルについての話をちょろりと交わしたあと(←もう相手は忘れていることでしょう…)、その人に心の中で勝手に捧げる心意気で「何かミドクルっぽい小話を…!」と書きかけたところで、
「…でもミドって、どういう話し方したっけ?(汗)」
…という、とてつもなく基本的な壁にぶつかって放棄してしまったのでした…。実はいまでも「おじいちゃんはすごいんだ!(火力船関連)」周辺以外の台詞を全然思い出せずにいるんですが(←ダメだよ…)遥か昔に見た某OVAのミドの声を思い出しながら書いていたら、一応ゲームよりはちょっと後?の未来だというのに、なんだかどんどんどうしようもないほど幼く、台詞もひらがなばかりで頭も悪そうに悪そうに…(ただし研究用語だけは漢字で喋れるこの子供/笑)。…あああ、でも今思えばちゃんと敬語で話してたような気もしてきたような…!あわわ!じゃあ、私が書いたこの子供って、誰…!?(←ニセモノ)
…違和感&ニセモノ要素満載ですみません;;
ついでに、ひらがなばっかりで読みづらかったことでしょう…(--;)ここまで読んでくださった方、本当にどうもありがとうございました(深々)。
こんなものですが、全国のミドクル派の方(+もちろん、バツレナ派の方も!)に捧げます。
…ところでミドクル派って、全国にどのくらい…?
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