:「父親狂騒曲」
一面の闇だった。
その中に、青いマントの男が一人。光源はないのになぜか、その地面の穴でも覗き込んでいるかのように膝をつけている姿が見える。
その男はなにやら拳を固め、肩を震わせ―――
「あぁっ、そんなにくっつくでない!もっと離れろ―――そう、そうでいいのだよ・・・ふぅ。あ、またそんな!・・・と思ったら。ああ、なんだ。転んだだけか・・・」
怒ったり安心したりしていた。その姿があまりにもおかしかったのだろう。近くの闇から、また別の声が掛かる。
「・・・タイクーン王よ、一体何を見ているのだ?」
少々呆れ気味の雰囲気が漂う男の声が聞こえた。と同時に、やはり青いマントの――ただし、こちらは氷を思わせるような薄い蒼だが――男が現れた。その男は、あたかも先刻からその場にいたかのように、足を組んで座った姿勢で、手にした本のページをペラリとめくった。
「こっちは読書にいそしんでいると言うに・・・・・ああ、なんだ、地上を覗いていたのか。」
「・・・・・ゼザ殿。その・・・『覗く』と言う表現は・・・ちょっと・・・」
「――自分の娘のデートを陰からこっそり見張るというのは結局覗きでしかないと思うのだが・・・?」
タイクーン王と呼ばれた男――もちろん、本物の王である。ただし、それは生前の話だが――が覗き込んでいるあたりには、本当に穴があるのだった。ただし、あたり一面真っ暗闇で壁も床も判然としない。
――あるいはそんなものは始めからないのかもしれないが。(ゼザ――二人目の男――が腰掛けているように見えるところも実は椅子などなく、その辺の闇に適当に腰掛けているように見える。)
それはともかく、穴にはどこかの景色が映っているようだ。2人連れの若い男女が歩いているのが心持ち上の方の角度から見えるようになっていた。2人は何か談笑しながら林の道を散策している途中のようだった。
青年は茶色い髪に青っぽい服、娘の方は珍しい桜色の髪に橙色の服を着ていた。ただし、なぜか青年の服はボロボロになっていた。
「くっ・・・・・!ばれていたとはな。――フッ、さすがはゼザ殿。」
「・・・・・そんなことで「さすが」とか言われても全然嬉しくないんだが・・・・・ちなみに、バッツの方」
と、映像の中の男を視線で示して、ゼザ。
「・・・なんであんなに土で汚れてるんだ?」
「――ああ、それは」
と、大した事ではないように王は言った。
「さっき地震を起こしてやったのだ、ガラフ殿にタイタンとの契約方法をおしえてもらってな・・・なんせ娘の半径30センチに入ったんだからな、当然だろう。――なかなかのピンチだったようだぞ?なんせ、地割れに飲み込まれそうになっていたからな。」
「そ、そうか・・・・・じゃあ、なんかあんまり聞きたくはないが・・・・・あの雷に打たれたように所々焦げてるのはなんでなんだ?」
「ああ、それはな――」
タイクーン王はふと、遠い目をした。
「――ラムウは、物分かりの良い幻獣だった・・・・・。」
「―――鬼か。」
要するに、ここはあの世のようなもので、暇を持て余す死者達の魂――なにしろ不老だし、これ以上死なないという点では不死ともいえる――が勝手気ままにやっている怠惰なパラダイスなのであった。
彼らはこうして、次元の隙間から生きとし生ける者達の地上界を眺め、その残してきた者達を見守ることができるようになっている。これにより、死者達は己の孤独を癒すのだった。
――ただし、一部では死者達はただ単に暇つぶしにこれを利用しているだけだともいわれているらしいが。しかし、そう言っているのも死者なのだ。彼らは本当に暇なのだろう。
「・・・・・まさにあなたのことだな、タイクーン王。」
しかし、本人は心外だったらしい。
「これは暇つぶしなどではない!!私はちゃんと愛する我が娘をあのアウトローから護っているのだ!!」
「―――なんで、そんなにバッツを嫌うんだ?確かに、少々未熟な点はあるが・・・なんと言ってもまだ若いのだ。これからどうにでもなる。それに」
「・・・・・それに?」
ゼザはちょっと間を空けてみせた。
「想い合っているのを邪魔するのは、いかに父親でも無粋というものでは?」
「――私にはなにも聞こえないな。」
「・・・それは残念だ。結構恥ずかしい台詞だったのに」
「・・・・・フン」
タイクーン王の怒りはまだ続くようだった。ゼザは読書を中断して話を聞いてやることにした。
「大体だ。なんでいい年をした一人前の男が定職にもつかず、家庭も持たずに剣に頼ってフラフラしているのだ?――国に税も払わずに。」
「――まあ最後の怒りはわかるぞ、同じ元国王として。」
そこに、3人目の声が加わった。
「――なんか今、誰かに自分の生前の生き方を思いっきり否定されたような気がしたんだが・・・・・」
「ああ、ドルガン」
ゼザはとりあえず、その現れた壮年の男に微笑して見せた。中途半端な微笑だったが。
「否定されたのは君ではなくて、君の息子だよ。・・・・・ちなみに、否定したのは私ではなくてそっちで自分の娘と君の息子のデートを邪魔している無粋極まりない元どっかの国王だから。」
「何っ・・・!!ゼザ殿、貴公だってさっき・・・」
タイクーン王は最後まで言うことができなかった。ドルガンが剣を抜いたのだ。
「・・・ドルガン殿・・・気は確かか?私はこれでもタイクーン一の剣の使い手と言われた男だぞ?」
言いながら、自身もどこに隠していたのか剣を取り出す。
「私の剣だって暁の四戦士一だといわれているのですよ・・・息子の幸せは私が護る――ていうか、あなたにだけは意地でも壊させない。さっき生前の私を思いっきり否定されたし」
「いや・・・だからそれは・・・まぁいいか・・・。」
二人は決闘を始めたようだった。
剣と剣がぶつかりあい、火花を散らす。さすがに2人とも足さばきが慣れている。ゼザは、(二人ともまあ同等の技量なんだろう)と思った。
実は決闘はこれが初めてではない。今までにもこの二人はなにかと決闘騒ぎを起こしたことがあった。剣士としての血が騒ぐのだろうか。しかし、今日は互いの息子・娘に関わる事だからかいつになく殺気立っている。しかし当の息子・娘はこのことを知らないのだから滑稽だ、とゼザは一人思った。
「・・・それにしても、落ち着いて読書のできる時間は私には与えられないんだろうか」
「おい、ゼザ。・・・まずいんじゃないのか??」
「おお、今日はケルガー、お前まで来たのか」
ゼザは、またいつの間にか現れた友の狼男に曖昧な笑みを向けた。
「駄目って事はないだろう・・・どうせいくら当たっても死なないんだし。というより、もういつものことだし。」
「いや、そうではなく・・・地上が大火事になっているんだが。」
「え?・・・・・ああ、なるほど。さっきタイクーン王が『暁の四戦士+α協定』を破って炎の魔人イフリートを呼んだときに次元の隙間から飛び火したんだな・・・その時に彼はペナルティーを一点分取られたから今はドルガンが423対421でリードしているのだよ。」
「聞いてないって。・・・それより、いいのか?このままの状態で?」
「良くはないな。・・・・・仕方ない。いつもの、行くか。」
二人の(愚かな)父親はまだ戦っていた。その二人を遠巻きに挟むようにして立つと、ゼザとケルガーは両手を掲げた。
「――ブリザガ!!!」
「――ファイガ!!!」
巨大な氷柱が決闘者2人の頭上に現れる。と同時に巨大な炎の玉が現れてそれに激突した。
ジュワッッ!!
――結果。
『―――へ・・・??』
突然大量に現れて降って来る水に対しては、さしもの剣の名手達も成す術がないはずだった。しかし――
「くっ、毎回毎回こんな手で邪魔されてたまるか!!・・・ガボッ」
「グボッ。その通りだ、ドルガン殿!今日こそは決着を付け・・・ゴボッ」
「む、案外しつこいな。――ならば、これでどうだ!!ブリザガブリザガブリザガブリザガブリザガブリザガブリザガブリザガもうMPの限りブリザガ―――!!!」
「オオッ、それってわしにもやれということだな――!?よかろう!ファイガファイガファイガファイガファイガファイガファイガファイガもう命の限りファイガ―――!!!」
「お前はもう死んでるだろうブリザガ―――!!」
「おっと失敬、そうだったなすっかり忘れていたようだファイガ―――!!」
ドルガンとタイクーン王はもはや何も言葉を発さなかった――いや、水の底で白目を剥いて倒れていればそれも無理ないことだろう。
「おおーい、大変じゃぞい!!」
今日5人目の男が現れた。
「なんでも地上が大洪水で・・・・って」
男は頭を抱えて、うめいた。
「・・・・・また原因はお前らなのか・・・?」
「あっはっは、なんか疲れてきたから呪文を格下げだ!ブリザドブリザド・・・・・おお、ガラフまで来たのか。ハハハ、今日は賑やかな日だな。」
「ワハハハハ、わしも疲れて天から迎えが来そうだから格下げだ!ファイアファイア・・・オオッ、ガラフじゃないか。なんか用か?」
「いや・・・なんかもうどうでもいいような・・・ていうか、ケルガーよ、お前さんそれ以上迎えは来んって」
「オオゥ、いかんいかん!またやってしまったな!!まぁ愛嬌があっていいじゃろう!?ワッハッハッハッハ」
「・・・あああ、もう嫌じゃい、こんな生活・・・・・」
ガラフは本心の精一杯底から精一杯の本音を吐き出した。
まだ水は発生しつづけている。二人の術者の笑いも、やけくそのように止まらない。父親二人も浮かんでは来ない。
それでも、この怠惰なパラダイス、不老不死の監獄はきょうもおおむね、いつも通りに平和なのだといえるのだった。
おわり
<あとがき>
なんて言うか・・・・・ゴメンナサイ(^^;)。ゼザまで壊すつもりはなかったんですが・・・勢いよすぎて壊れました。しかも一人称違うし。結局残ったのはガラフだけ・・・。でもなんせ行軍中に「すばやさの歌」なんて唄っているような人達だから(笑)唄ってる間に本人達も気付かずにグングン素早さが上がってたりしてきっとエクスデスと戦ったときには平均時速520キロぐらいに達してたに違いない(笑)。うわ!早っ!!(爆)・・・ハッ!また暁の戦士たちを笑いのネタにしようとしてしまった・・・。
文章的にもうちょっと長くしようと思ったんですけど・・・やめました。ていうか、無理!私文章書くの遅すぎます。こんな短くて変な文章書くのになんと3時間も費やしました。・・・・・あほですな!!3時間もオヤジ集団(ごめんなさい)を描写し続けていたなんて・・・。でもオヤジってすごく書くの楽なんですけど(汗)勝手に会話が進むっていうか。それに比べて若者達は難しいです。本当はこれと同時進行でセットになったバッツサイドの話があったんですけど、没りました、途中でつまって・・・。だってあの2人でどうやって笑いの道を探れと・・・(汗)?いや、笑いの道はともかくとして、バッツ×レナがこのサイトの基本理念なのにちょっと会話させただけで私が恥ずかしくなってしまって・・・駄目ね私。普通の挨拶シーンくらい照れずに描写しろよ!絵だと少しは平気なのに・・・。